2019年
新年のごあいさつに代えて
あけましておめでとうございます。
みなさまにとって健やかな一年となりますように、この場を借りてお祈り申し上げます。
新年のごあいさつに何を書こうかなと考えていたのですが、やはりこの話をどこかに記しておきたいという気持ちが消えず、ごあいさつに代えて書かせていただきます。私の美容師としての想いをどこかに感じていただけたら幸いです。
ごめんなさい、長いです。
昨年末、手放したはずのハサミが10年という時を経て再び私の元へ帰ってきました。
遡ること10年ほど前、当時30歳の私は銀座のとある美容室で働いていました。
しかし、志半ばにして心身の限界を迎えてしまい、すっかり自信を喪失していた私はすでにその頃退職を控えていました。
お客さまを不安にさせることがないよう引き継ぎをきちんと終えてから退職することがせめてもの恩義だろうと考えていた私は、当時私の右腕となってアシストしてくれていた男の子に、私に残されていた時間の全てを使ってそれまで学んできたものを手取り足取り教えました。
私自身の未熟さや焦りもあって、決して器用なタイプとは言えないその子に対してまさにスパルタという言葉がぴったりの態度で接していました。
早朝から夜遅くまで勉強漬けの毎日でしたが、彼本来の生真面目さや次第に開花していく仕事への情熱も手伝って、その子は落ち込むどころか見る見る間に上達してゆきました。
私は当時、総店長という役職に就いていたため、そのポジションからの引き継ぎはスタイリストになりたてのその子にとってさぞプレッシャーであったろうと思います。
私はと言えば、帰郷したら美容師ではない別の道を探してみようと考えていました。
(しかし結局は帰郷したその日に古民家と再会しこの事業の種が生まれました)
本当につくづく自分勝手な人間でした。
私は自分の分身のような存在であった大切な2丁のハサミのうちの1丁をその子にあげました。
せめてもの償いの気持ちだったのかもしれません。
そうして私は東京を去りました。
そして昨年の末。
その子が東京から髪を切りにきてくれました。
10年前にあげたはずのあのハサミを持って。
「本当の持ち主のところへ返しに来ました。」そう言っていました。
そのハサミを両手で受け取ったとき、
「おかえり」
思わずそう口からこぼれました。
この10年の間、彼はそのハサミを使いながら自分なりに引き継いだお客さまと向き合い、落ち込んだり葛藤したりして(多分、時には私を恨んだりしながら)着実に成長していました。
大人になった彼が発する美容師という仕事に対しての熱い想いを聞いていると、その姿を見ずともそれが十分に伝わってきました。
美容師という仕事以外にこれが自分だと言えるものがない私にとって、10年前ハサミを託した当時はまさに「どん底」でした。
ハサミと共に何か大切なものを失くしたようでした。
もしこれが5年前に戻ってきたら、受け取れなかったかもしれません。
もう一度このハサミと共に美容師として腰を据えて始められる今このタイミングで戻ってきたことに不思議な縁を感じずにはいられません。
久しぶりに持ったハサミはどこかよそよそしい感じがするものの、確かにずっと私の手の中に残っていた感触でした。
2019年、再びこのハサミと共に歩きはじめます。
その子は現在そのお店の店長となって当時の私の実績など優に超えるスタイリストとして活躍しています。
先日髪を切ったついでに、私の髪も切ってもらいました。
ハサミの持ち方、こだわり、至る所に当時の自分の姿が重なり涙が出そうでした。
今頑張っていることは今すぐには報われないかもしれない。
でもいつの日か何かの形で姿を変えて返ってくる。
そう信じられる。
だから今を生きたいと思う。