多きな待合室
「多きな待合室」は
とても古い一軒の民家です。心地よく過ごしていただけるように少し手を加えています。
通り土間には台所があります。時々ここで、美味しい教室があります。
畳の広間があります。靴を脱いでどうぞのんびりくつろいで。時々ここで、愉しい教室や催し物があります。
少しだけ本があります。何気なく手にした一冊から新しい扉が開くかもしれません。
家の中を田んぼからの風が通り抜けます。自然のエアコンが体感できます。
庭と畑が見えます。縁側に座っていると移りゆく季節を感じるでしょう。
周りには田んぼが広がっています。気が向いたら散歩をどうぞ。
時々2両くらいの電車が走っているのが見えます。あっという間に通り過ぎます。
静かなところです。12時と5時を知らせる音楽が流れます。それから虫の声。雨の音。
夕暮れ、空はグラデーションに染まります。青の時間がやってきます。
夜、闇に包まれます。星がとてもきれいです。
美容室までの時間も、
美容室の後の時間も、
付き添いの方も、
お連れの方も、
待ち合わせの方も、
教室に来た方も、
こんな居場所を求めてくださるお客さまのためにここは開かれています。
「大きな」だけではない多様性と可能性を持つもう一つの居場所として名付けられた「多きな待合室」。
「多きな待合室」は、明治39年にこの場所に移築されてきた民家をリノベーションして生まれました。
多くの民家がそうであるように、この民家もまた、その時代時代ごとの暮らし方に合わせて何度も増改築を繰り返し、その都度形や大きさを変えながら100年もの間住み人を守ってきました。
そして今から10年前、住み手を失いこの民家は空き家となりました。
ここにはまだ古い面影と貴重な技術が残されています。
壊してしまうことは容易いけど、こんな民家を建てることは二度とできません。
活用していくことで守り、これからの100年を育んでいきたい。
リノベーションにあたり現状調査をしていただいたところ、特に増改築部分の痛みが顕著でした。
民家も100歳を超えとてもくたびれているようでした。
今回、増改築部分を撤去し再び明治39年の寸法に戻し昔の暮らしの形に近づけることで、無理がなく負荷の少ないリノベーションの方法をとりました。
とはいっても、これからの100年を育む場所。
今現在を生きる私たちとこの民家、両方にとって心地よく、新たな価値を見出せる場でなくてはなりません。
「待合室」という場に生まれ変わることで、現代の建築士、職人たちの創る新しい古民家再生のカタチを体感していただければと思います。
この「多きな待合室」は新築棟「小さな美容室」に隣接します。
新旧2つの建屋のデザインが生み出す連動性もお楽しみください。
このプロジェクトに関わる建築デザインの全ては、「株式会社 暮らし図」鯉渕健太さんの設計・総指揮によるものです。